2020年12月20日日曜日

帰宅せよ

味方を犠牲にしてでも、帰還せよ -『戦闘妖精・雪風』-

文庫本が段ボール箱の底に沈んで久しいので、正確な引用が困難になったが、つまりはそういうことだ。

これは旅行でもなければ外出でもない、自宅がある大田区への帰宅である。


出発地は、前回の中断地点である岡本公園。休日公園の中には人間がいるので、外周から。用があるのは、公園ではなく、その南側を通っている「六郷用水」なので。


六郷用水(現地住民の言葉では「マルコガワ」)は緑道としての整備がなされていて、道路から木製の遊歩道が張り出している。ここから大田区まで歩いて帰る。


岡本公園の東南の端で、谷戸川と合流。谷戸川は北にある砧公園という別の公園から南に(写真の奥から手前方向に)流れてきている。


人通りは少ないが、車通りは多い。どこに行くにも車、都会であっても車、という住民が多いのだろうか。

緑道整備の際に作られたのであろう、道標。現代の物は昔の石碑に比べて表現力は高まったが耐用年数に難ありだ。

魚の姿は見かけなかった。そもそも上から見てはっきり分かるようなら、生存も難しいだろうが。鳥類は見かけた。カモとかサギとか、人間にもいそうなグループ名のが。



六郷用水の別名である、次太夫堀の解説とかの案内板が各所にある。統一感はないので、同じような文化施策が複数の事業主体によって幾度か繰り返されたのが分かる。


緑道として整備とは言っても、生活や商業の隙間で行われるものなので、途切れるところも当然出てくる。上は東急田園都市線。


「大山道」という古道の道標らしい。今回の道程との関連は不明。そのうち行くかもしれない。


上野毛自然公園。ここで「国分寺崖線」というものを初めて意識する。六郷用水のこの辺りは崖線の南側を流れており、崖からの湧水も併せて流していたのだ(?未検証の仮説)。


崖の下側は多摩川の洪水を直に被る。六郷用水の水路の南北でハザードマップの色も変わるのだろうか。


さて、地図見て気になっていたこの場所。

六郷用水は多摩川に沿って、西から東(狛江→蒲田)に流れていく。そこを北から南に貫く谷沢川(↓)。どうなっているのだろう。


今まで西から東に流れてきたのに、ここに来て、急に南方向に折れ曲がる六郷用水。

しかし、東側にも水の流れがある。上流である西側に比べて、下流側のこちらの水量は少ないように見える。

交差地点を北(谷沢川の上流)川から見たところ。谷沢川は手前(北)から奥(南)にまっすぐ流れており、右側(西)から六郷用水が合流して南に流れる。先ほど見たとおりだ。

合流地点の上(歩道)から下流側を。左から谷沢川。右から六郷用水。両者がここで合流して南の多摩川に行くのだ。では、東側の六郷用水の水はどこから?


は?なんか湧き出している。交差地点の北東の角にあたるところにあるものだ。さらにこの裏に回る。


ポンプ設備!これは……、谷沢川(上流)の水を汲んで六郷用水の下流に流しているのか。とんでもない詐術!これは酷いゴマカシの匂いがするぜぇ~。


さらに、現在進行中の詐術。今ある谷沢川の流れも地中化して洪水を防ぎ、無知な地域住民の皆様には「きれいで安全にコントロールされた谷沢川」を楽しんでもらおうって話だ~。


『マトリックス』とか、「日常と思っていたのは、実は人工的に作られ、管理された仮想現実だった」みたいな話、昔(昭和)も今(令和)も変わらず需要がある。けれど、「仮想現実破ると『むきだしの自然』と直接対峙することになる(人死にも出る)」というところまでリアリティのラインが上がり、シリーズ後半がその「本当の問題」に向かうような作品が多くなったと思う。平成の30年間の鬱屈の中で、徐々に。

最近の作品の主人公には「真実が明らかになってハッピー」のその先の、「もう少しマシな落とし所を探る」ことが求められている気がする。サスティナビリティー。


この世界の真実を知ったついでに、谷沢川の上流にも行ってみる。せっかくだから。
東京23区内に唐突に現われる大自然の驚異。等々力渓谷だ。


湧水。これは人工物っぽいが。

露出した地層。


案内板や遊歩道も完璧に整備されているので、遭難の心配は無く、登山の準備も不要だ。それでも階段や坂道には閉口するが。
もっとも、渓谷の「内側」は外側の崖に比べて何メートルも低い。今まで通った用水路を途中で北上していたら、その「何メートル」が坂道の傾斜としてプラスされていたことになる。
谷沢川の水が「低きを流れる」原則から逸脱することを頑なに拒み続けた結果が、他より若干緩いこの傾斜だ。ありがとうと言わせてほしい。私も君たちのように低きに流れていくよ。


等々力渓谷の中を北上して、等々力駅前で昼食。アルコールを入れるつもりはなかったのだが、「とどろき渓谷ビール」というピンポイントな商品を目にしてしまい、結局1本飲んだ。

昼食のあとは、六郷用水の流れに復帰すべく、渓谷を南下。あちこちに「雨天時は増水して危険です」という注意書きを目にする。先ほどの地下化工事が急がれる所以だ。


金属と樹脂の案内板よりは長く残りそうな、石の道標。「次太夫堀」の「堀」の部分だけ湿っぽいのは、地下の水流の存在をほのめかす「暗渠サイン」だろうか。それとも近所に住む犬の体格を示すものだろうか。


またしても六郷用水の案内板。東京都市大学の名が入っているので、もしかしたら一番新しい物かも。


「丸子川」と書かれた標識。大変遺憾ではあるが、その川に流れている水、実は谷沢川の物なのだ。「お前たちはだまされているぞ!」

しかし、この看板で一番重要な情報は右下にある「大田区」である。そう、大田区に帰ってきたのだ!(田園調布だけど)


大田区に帰ってきた記念に、田園調布八幡に(若干遠目から)お参り。


「お鷹の入堰」と呼ばれる場所。六郷用水があふれる前に水門が開けられ、丸い池のその先にある多摩川に水を逃がす、ということらしい。


大田区に帰ってきたフラグが立ったので、大田区立の公園へのルートも開かれた。


公園の中にはたくさんの古墳。そして古墳。見てもそれと分からないが。


古墳跡を公園にするところまでは大田区も川崎市も同じだ。が、遊び場にして子供が踏んづけるままにしている川崎に対し、大田区は若干過保護。


冬の、中間色だらけの色彩の中で、1つだけ鮮やかな色をしたものがあった。「はねぴょん」(大田区のキャラ)だった。


管理事務所には、古墳展示室。カッチリした建物と対照的な、ファンシーな表示。


古墳展示室とは何か。文字通り古墳を展示する場所だった。古墳はレプリカ(現在の建築材料)で、中も展示室になっている。(本物の古墳の材料なら等々力渓谷あたりでいくらでも手に入るはずだが)


あまりにも古墳の数が多いので、番号で呼ばれている。古墳作った当時の人も、まさか自分たちの墓が、アラビア数字で管理されるとは想像しなかっただろう。


遠い昔に、大田区と埼玉県の戦争があったことを説明する展示。「ずるがしこく、心が高慢な小杵」とは、ずいぶん酷い言いようだが、この「ずるがしこく、心が高慢な小杵」が我らが大田区である。(大和政権視点)


展望台のすぐ南は多摩川だ。多摩川台公園を名乗るだけある。


石碑と案内板の背後の土が古墳なのだという。これ、見ただけで古墳って分かるものなの?


午後三時を過ぎると、もう夕方という光加減になる。

公園のすぐ隣の多摩川浅間神社にお参り。安産・子育ての女神様なので絵馬も「お腹の中に赤ちゃんがいます」デザインのものがズラリ。


来年も東京都が存在していますように。

2020年12月6日日曜日

世界が終わるまでは

ついにセルダンは計算をやめて、いった。「これは五世紀後のトランターだ。これをどう解釈するかね?どうだ?」かれは小首を傾げて、待った。

ガールは信じられないようにいった。「完全な滅亡です! しかし──しかし、そんなことはありえません。トランターはいまだかつて決して──」

アイザック アシモフ『ファウンデーション』

コロナによる人類滅亡の可能性が視野に入ってきてから、既に半年が過ぎた。その中で、日本は「不要不急の外出を控えながら経済を回すために旅行を推奨する」作戦を展開中である。

実際のところ「外出を控える必要が無くなったときには行きたい場所が消失していた」という悲劇は日本各所で既に発生している。自然、無くなって困るところには今だからこそ行っておかねば、という気持ちも起こってくる。

無くなって困るところ、東京。無くなったら命に関わるもの、水道。

そうだ、「東京都水道局」の施設に行くのだ。

とは言え、ここに来て急に「行きたい場所のリスト」に挙がったというわけではなく。外出先を近場に絞りたい昨今の情勢。ついで、最近歩いてきた東京の水回りについて博物館的なところでおさらいしておきたい、そんな希望を背景に。優先順位の最上位に浮上したのが、今回の行き先だ。


鶴見川水系のシンボルであるバク。ただし、ここは東京都江東区である。

東京都水道局の「水の科学館」だ。


外壁に設けられた、ドバドバと、ただ水を垂れ流し続けるだけの「噴水」。農業用水を巡って命がけで争ってきた川崎地域の人々が憤死しそうな所業だ。Fury Road。
視点を変えれば、江戸時代から近代そして今に至るまでに、それだけの努力と進歩を積み重ねてきたということでもある。


最上階の3階は、水源である多摩川の源流とそれを取り巻く自然を取り上げている。(『鬼滅の刃』で、急に注目度が上がった)雲取山あたりを北端に、水源林一帯の地形図が床に並べられている。

「旅行」になりそうなので、自粛している奥多摩は小河内ダム。
そして、死ぬまでに一度は見てみたいとは思いつつ、登山とか坂道とかが嫌なので「保留期間:一生」にしている「小さな分水嶺」「水干」。
そんな場所を映像でチラ見させてくれる。

のび太「坂道に弱くてねえ。平らな山ならいいんだけど……。」

動植物の標本展示も、行って目にしたとしても絶対に気付かないような「土地のもの」をピックアップしている。

目玉は「水のたびシアター」。雨粒がダムから放水されて、取水口から浄水場……蛇口から出るまでを、少々無駄に迫力ある映像で見せてくれる(映像酔い注意)。
一番ウケたのは「クマがミツバチの巣からハチミツを取る場面を木の幹の中からの視点で」という面白映像。
しかし、一番驚いたのは水源の林を水道局(つまり都の予算で?)が自ら維持管理していたこと。勝手に林野庁とか環境省(国立公園)とかだと思い込んでいた。


チェーンソーアートの水滴くんは、もともと奥多摩の「水と緑のふれあい館」で展示されていたもの。


土壌の標本。カットモデルは男の子の夢。


吹き抜けから「わくわくマウンテン」を撮影。でも3階からの見下ろし視点ではなく、2階がベストポジションだったらしい。(撮影ポイントがある)


その2階は、水そのものの物性をフィーチャーした実験室、浄水の工程の説明、さらにその後蛇口から出てくるまで……。こっちは割と人間の世界。

自宅に届く水道水が、どこの浄水場のものか教えてくれる展示とかが楽しい。しかも、自転車を漕いで道行く設定で、漕ぐのをサボると映像の再生が遅く……という芸の細かさ(ありがた迷惑!)。


写真に他の客が映らないようにするのがとても容易だった。実際には客はいるのだが、館のキャパに対しては相当な「疎」だった。触って遊ぶ展示が多いので、夏頃までは相当の困難があったと思う。昨今は「物への接触よりも、人間の呼吸」に対策の焦点が移りつつあるからか、互いの距離を取ることと、長時間一カ所に留まらないことに注力されている。

お金のかかるコンテンツは「東京の水道水で飲料を作る自販機」のみ……屋内であれば、あちこちに存在するもの……くらいだ。
特にメインの「ミネラルウォーターと互角に戦える『東京の水道水』」がタダでいくらでも飲める。マイボトル持参も可という太っ腹ぶりだ。
そこを「物販ないのが惜しい」と思うか否か、微妙なところ。



さて、上水道の次は下水道。


東京都『虹の下水道館』。有明水再生センターの5階にある。左は有明清掃工場、右はスポーツセンター。(施設として一体のものなので、実際にはもう少し複雑)


水の科学館より、館自体はワンフロアで小規模なもの。ただ、下水道管を模した配管が床下に透けて見えたり、その管自体も水の流れるところを見せるために一部透明だったりで、1テナントとして出来る範囲での工夫がある。

「水の科学館」は面白いところだったが、「虹の下水道館」はテンションが上がる感じがある。国立科学博物館の地球館と日本館のようなカラーの違いがある。そう、身近にある、日常的な風景の裏側に入り込む感じだ。


レインボーシネマで上映されているショートフィルムには主演らしき温水洋一氏の姿が。アニメ作品など含め、1本10分~20分くらいのものが複数上映されていた。 失敗した。これ、絶対に面白い奴じゃん。
「水の科学館」が楽しすぎて、入館したときには、最後の作品の上映中だったのだ。


いつか必ずお世話になるであろう、仮設トイレ。近代化改修済のマンホールの上にかぶせて使う。見分け方を知ってしまうと、そのようなマンホールを事前に探しておこうという気にもなる。


お仕事体験、水再生センター見学ともども、1日辺りの実施回数が少ないので、下調べが必須ではないかと思われる。もっと時間を取れる日に再挑戦したい。

好みが分かれるというか、相当に人を選ぶと思うけど、合う人は常設展示眺めるだけでも相当楽しめると思う。


同館1階の駐車場の傍らでは、センターで再生された水でコイが飼われている。
きれいさのアピール」であることを理解しつつも、「白河の清きに魚も……」の句が連想されてしまった。申し訳ない。