2023年7月8日土曜日

AIとSF

日本のSF作家による、書き下ろしアンソロジー。

『BEATLESS』『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』の長谷敏司のAIネタが書き下ろしで読める、というのがフックになった。

ChatGPTとか、生成AIとか、最新の知見を取り込んだ近未来を舞台とするような作品が多いだろうと想像していた。しかし、そこはSF作家。最近のAI事情を踏まえつつも、「スゴい未来」から「時は平安末期」みたいなものまであり、よりどりみどりだった。

むしろ、冒頭に挙げた長谷先生の「準備がいつまで経っても終わらない件」がほぼ現在進行形の時代設定で、むしろそれが異色と言ってもいいくらいだった。

以下、個人的なトピック。

準備がいつまで経っても終わらない件(長谷敏司):
 大阪万博の開催をかけて行われる相撲対決。そして、いのちの輝き。

形態学としての病理診断の終わり(揚羽はな):
 AIに仕事を奪われるテーマとして、割とシビアな話。そして残るもの。

智慧練糸(野崎まど):
 平安末期。千体の仏像制作を依頼された仏師が、納期厳守のために採った方法は。

月下組討仏師(竹田人造):
 月が消えるという未曾有の異変のさなか。江戸城で繰り広げられる仏像バトル。

チェインギャング(十三不塔):
 (自分的には定番となりつつある)大塚芳忠さん&悠木碧さんの二人芝居で聞きたい話。
 知能を持つ刃物に人類が操られる世界。鎖鎌と少女が禁足地を目指す。

セルたんクライシス(野尻抱介):
 人々をケアするパブリックAI「梁井セルたん」が神様を自称し、「セルたんクライシス」について語り出す。アシモフ話。
 そう言えば、AppleTVで『ファウンデーション』のシーズン2が始まる。

作麼生の鑿(飛浩隆):
 「事前の観測・計算を行わずに、木材から仏像を彫り出せ」という難題を与えられたAIが悩み続ける。

仏教が絡むネタを扱った作品が自分の琴線にふれることが多かった。哲学的な問いかけを多く含み、ガジェットが豊富なのが魅力か。

巻末には鳥海不二夫氏の、現実のAIについての解説。解説文中でも紹介されている『強いAI・弱いAI』は読んで楽しい対談集。当ブログでも過去に取り上げている。



2023年7月2日日曜日

気になるあの場所(再び)

ずーっと、「行きたい場所」リストに載せていたにもかかわらず、そのまま底に沈んでいた場所に。


東京海洋大学 マリンサイエンスミュージアム


平日しか開いていないので、なかなか予定に組み込めなかった場所。

行ってみたら、臨時休館中だった。後でサイトを再確認してみたら、コロナ休業からの再開後もちょくちょく臨時休館している。特定のスタッフに依存しているのだろうか。

雨も降り出した。せっかく休暇取っての訪問だったのに幸先悪いなあ。いずれ再挑戦しよう。


ヤマトグループ歴史館 クロネコヤマトミュージアム


こちらも、コロナ休業が長く続いていたが、春頃再開していたのに気づいた。写真撮影が可能な箇所は一部のみ。

グループの歴史、宅配便の仕組みなど。根本的には企業グループの博物館なのだが、物流が絡むと、近現代史から、自分史にまで繋がってくるので刺激も多い。

関東大震災の時の復旧・復興で大きくなった会社だった。
東日本震災時、同グループが、集積所で渋滞していた援助物資の整理に乗り込んだ時、そのフットワークの良さに驚いたものだが、そういう歴史が背景にあったのかと思うと、腑に落ちるところもある。


なかなか、中から見ることはないであろう配送車の荷台と、近年街で見かけるリアカー。車より小回りが利きそうだが、ドライバーさんは大変だろうと思っていたら電動化されていた。

新しいサービスや、仕組みの発明。海外視察からトップダウンで始まったもの、地方の現場で実験が積み重ねられたもの、顧客(私たちのことだ)の声の拾い上げから始まったもの、それぞれの生まれが説明されていて、なんというかダイナミズムみたいなものを感じた。
歴史館としては、会社が経営的に辛かった……のみならず、社内のマインドの停滞なども描かれており、率直というか、社内政治のアレヤコレヤ含めて、物語化していこうという意志を感じた。
国や官庁などとの距離感も描かれ、事業認可の是非や期日厳守を世論に訴えるための、声明(新聞広告)は私も子供の頃に読んだ記憶があった。

企業の歴史館なのに、自分事と結びつく展示が多かった。取り上げるトピックや展示物の取捨選択の良さだろう。


カフェと物販あり。物販はおみやげというより来館記念の品になる。


食とくらしの小さな博物館


味の素の博物館。


あらためて思い起こしても、味の素とか、自分で買った記憶がない。そもそも振りかけて使うものなのか、食材を煮炊きする時に一緒に混ぜるものなのか。つくづく世の中知らんことばかりだ。

入口から入ったところに、会社の創業期を紹介するビデオのコーナーがあって、故・永井一郎さんのナレーションが響く。残念ながらスタッフのクレジットは含まれておらず裏が取れず。
まぁ、幻の調味料を求めて彷徨する青年の話でも、何にでも味の素を振りかけて食べる伝説の食い逃げ犯の話でもないのでしょうがない。


この館も撮影可能な場所は限られている。写真は、最初期に味の素の製造に使われていたカメ。有害な不純物の心配のない、食材が科学的工業的に生産される時代の始まりだ。

明治期に普及した「ちゃぶ台」と家族皆で囲む食卓の始まり。お父さんの傍らにはいつもビールがあった。キリンビールだったので生麦の横浜工場製だろうか。食卓の上には味の素の缶が一つ。

創業期から現在に至るまでの時代、およびその時代の同社製品を4つに区切って紹介していく構成。1900年代前半のものは撮影OKだった。(商標とか著作権とかだろう)
館内には(一般的な博物館同様)BGMはないが、調理中に器具や食器の発する音が流れていて、そこに生活する人々の存在をうかがわせる。


それは「うま味」の発見から始まった--的な。かはくが重要科学技術資料として既に唾をつけている。

新規の発明品には、ついてまわるデマもあった。味の素の原材料がヘビであるという噂に反論する声明文。(ヘビから取った調味料とか、マニアにはウケそうだなぁ)

味の素グループの現在の製品群。「味の素」そのものを買ってないだけで、だいたいを手に取ってみたり、購入して使ってみたりしている。むしろ依存していると言えなくもない。

地下は、食に関する図書館になっており、縄文土器(食器だ)から生物(食材だ)、化学(調理だ)、マナー、レシピ、外国事情から文学作品など、専門誌から古書、コミックに至るまで幅広く扱っている。専門図書館って初めて入ったけど驚かされた。


自然教育園(国立科学博物館附属)


ここは結構来ている。
企画展「植生管理の仕事人」が面白そうだったので。
面白かった。
観覧のために「邪魔」になる草木を取り除く場所、研究のために意図して「放置」する場所。多岐に渡り、あるいは時代とともに移ろっていく「人間のワガママ」と、そんなことに頓着しない「野生の植物」との折り合いをつけていく仕事。

彼らの仕事道具の展示とか、来園者への気遣いとか自然に対する考え方とか。
傍らには、彼ら以外のスタッフの仕事道具(相棒)を紹介するコーナーも。それら相棒の中の一つ、測量野帳(かはくショップで出しているものは鮮やかなオレンジ色)は私もリピ買いしている。

リピーター・パス買うと、上野の本館にも、つくばの植物園にもタダで入れるのでおすすめ。