菅原:弱点?
皇帝:民を愛しすぎることよ。おおいに煩わされることとなろうぞ。高度な文明を誇りながら、国力を蕩尽し、遂には蛮族に滅ぼされた国もある。貴国も心しておくがよい。
-- GATE 自衛隊彼の地にて、斯く戦えり #14 --
違うのだ。皇帝、違うのだ。
あなたが直面している敵は、民を愛するが故に強大な軍隊を擁する国ではない。
億を数える民衆、彼ら自身が自らの意志で戦争する国なのだ。
望まぬ戦に巻き込まれる無辜の民衆などいない。民衆自身が戦争する主体なのだ。
あなたの恐れる軍隊を支えているのは、数千人から数千万人という多数の成員の意志をわずか一昼夜で集約する巨大なシステムである。それを構成するのは、買収できない官僚たちと彼らを律する制度、権利持つ者一人一人を識別し居住地を追跡する戸籍、それら一切を絶えずつなぎ止め続ける通信と物流である。これらの構築と維持にどれだけ膨大な労力と富が捧げられているか、それをこそ恐怖すべきなのだ。
あなたの兵士を撃ち抜いた魔法の杖、あなたの城を吹き飛ばした雷などというものは、巨大な竜が内に抱えた炎から発した火の粉にすぎない。
政治の機微も戦のルールも解せず、一片の勇敢さも持たぬ民衆。彼らはあなたが死ぬまで殴り続けるのをやめることができない。あなたの反撃を恐怖する故である。痛みへの恐怖に耐えることができないから、あなたに反撃の機会は一切与えられない。
あなたの富は収奪されることなく、その価値を知らぬ者の手で、ただ破壊される。
あなたの民は奴隷にされることなく、老若男女の別なく、ただ殺される。
帝国の版図は占領されることも、小王国に分割されることもなく、人の住まぬ名も無い土地となる。
あなたの名が忘れられることはない。誰もあなたの名を覚えないから。
幼女の皮をかぶった化物。化物の名は現代人。