2023年10月15日日曜日

江戸川

今まで、渋谷川だ目黒川だ、と目に入った川を度々歩いてきたが、「東京の川めぐり」(編: リバーフロント整備センター)を読んで、 いっきにたくさんの川が視界に入ってきた。

20年前の本で、既に廃止された施設の情報があったりもするが、それでも道行きがイメージしやすくなった。
別に順路を指示する類の本ではないのだが、せっかくだから最初に乗っている江戸川を歩いてみる。歩いてみるといっても1日で歩けるような距離ではないので、「疲れたら適当なところで打ち切って、後日再開」ということを続ける。

出発は葛飾区の水元公園から。
ハスの季節。ここには普通に見られるハスだけでなく、オニバスを育てている場所もある。

とはいえ、見に来たのは「水辺のいきもの館」だ。広大な公園の両端に同館と「かわせみの里」という施設があり、前回訪れた時は「かわせみの里」しか見れなかったのだ。
水元公園内の様々な野生生物が飼育され、写真が飾られている。その中にはもちろん定番のアオダイショウ。こんにちは。

水元公園から、小合溜をたどり、金町関所跡を経て、本題の江戸川へ。

川幅も広いが河川敷も広い。

道路に鉄道、川に架かる橋が千葉と東京をつなぐ。…三角トラス橋ばかりだなぁ。(そうでないのは桁橋)

三角帽子にまんまる帽子。現役の取水塔だ。江戸川のおいしい水。

連れて逃げてよ、矢切の渡し。伸びた草木が邪魔でイマイチそんな雰囲気でないが。

ほどなく歩くと、柴又公園。葛飾区の「寅さん記念館」がある。中のものは映画絡みなので撮影しなかった。で、残ったのが、この「人車鉄道」の写真。人力の鉄道!1両編成! しかも、水元公園に行くために、私が乗ってきた、京成電鉄金町線のルーツだという。

すぐお隣の「山本亭」でお茶飲んで、ついでに「柴又帝釈天」に寄って、ここまで1日め。


2日め。柴又公園から再開。相変わらず広い江戸川。

北総線江戸川橋梁に、京成電鉄江戸川橋梁。同じ川の、見た目似たような感じ、似たような名前の橋に、それぞれの会社がそれぞれの電車を走らせている。

江戸川区の小岩菖蒲園。シーズンオフなので花はほとんど無い。植物たちは力を蓄えるべくガンガン光合成しまくっている。

さらに南下すると見えてくる篠崎ポニーランド。こんにちは。
(ポニー乗馬ができるのは小学生まで)

篠崎ポニーランドのさらに南では、江戸川と旧江戸川が分岐しており、さらに旧江戸川には江戸川水門がある。ここから3日め。

江戸川水閘門の閘門。江戸川を遡る水上バスやボートが今でも利用しているとのことだったが。一日中待ち構えていれば、利用するところを見ることができたのだろうか。

こっちが水門。ゲート操作室が並ぶ。この江戸川水閘門、2022年から改築検討が始まったよう。魚道も設けられる雰囲気なので、ちょっと楽しみ。

広いサイクリングロードっぽい感じだった雰囲気が失せ、コンクリートの割合が大きくなった。河川敷には相変わらずスポーツ施設が連なっている。時折、奇妙な形の石階段が壁を乗り越えており、ここが堤防の上だということを教えてくれる。

葛飾区では水道水を取水していたが、江戸川区では下水を処理している。我が大田区にもたくさんあるポンプ所は都民の守り手だ。

今井水門。この距離からでもわかる大きさ。ここで旧江戸川に合流してくる新中川、その新中川への高潮・津波被害を防ぐためのものだ。

妙見島。巨大なコンテナ船のようにも見える。上に乗っているのは月島食品のマーガリン工場。

三角トラス橋ばかりだった江戸川に、ようやく見つけたアーチ橋。(東京メトロ東西線)
ここら辺で力尽き、3日め終了。

4日め。東西線のアーチ橋を過ぎてほどなく、川沿いの歩道が工事で遮られてしまい、堤防の上を通れなくなる。復活するのは「なぎさ公園」付近から。

その「なぎさ公園」から江戸川を見下ろす。そしてGoogleマップに記された、謎の「ブイロクの樹」。ブイロク is 何。

舞浜大橋。向こう岸に見えるのは夢の国(のホテル)。空を見上げると、どのタイミングでも羽田方面に向かう飛行機が目に入る。そろそろ河口だ。

川沿いを直線で入ることができず、葛西臨海公園への入口を探す。鳥類園へのペットの持ち込みは禁止されているが、そんな看板を見ることなく、ワンちゃんを抱えて散歩している人が散見された。

公園の東南に設けられた休憩所から、江戸川の河口。やっと届いた。

せっかくだから、公園もめぐる。鳥類園の池でコサギ(?)を発見。スマホ(iPhoneSE)+スマホレンズ(2倍望遠)だと、このくらいが限界。

そして、水族園。「2028年にリニューアルオープン」の情報がチラついているので、すでに「この建物ともお別れ」ムード。お疲れ様。

2023年10月8日日曜日

かながわご当地菌類展

神奈川県の小田原市に、「生命の星・地球博物館」という県立の自然史系博物館がある。大きな常設展示室に、多種多様な展示物を抱え、レストランやカフェ、ミュージアムショップまである。とても金かかっていそうという印象とともに、地域住民に支えられている様子もうかがえる、絵に描いたような県立博物館だ。


町田市に住んでいた10年前ならともかく、「都区内から小田原、さらに箱根登山鉄道」という距離感に「2~3年くらい経ったら、また行ってみたくなるだろう」くらいの気持ちだった。だったのが1年前。そこから「超普通種展」から本日この記事と、気がついたら半年に1度のペースになっている。

とにかく特別展がいいのだ。「ここでしか、今でこそ」という強いテーマ設定や切り口。コンパクトなスペースに展示物を厳選、狭さを感じにくい構成、作り方のうまさ。


「ご当地菌類」という字面だけなら、たぶん、見送っていたと思う。県民じゃないし。そうならなかったのは「キャラクターの力」があったからだ。美少女イラストがあるから、ではない。「新規にキャラクターを描き起こせるくらいの “個性” を持ったキノコたちが、ここ神奈川には揃っていますよ」というメッセージを読み取ったからだ。

展示を見るより先に「特別展連動限定メニュー『ハッシュ・ド・きのこ』」を食べる。ハッシュ・ド・きのこ自体は期待を裏切らぬ、名前の通りの品。サラダには、テーブル備え付けのものと別に、当メニュー用のドレッシングが用意されている。酸味強めでさわやかな味。あと、右上の、しいたけとエビのコロッケ?私自身はこれが一番良かった。

特別展示室の入口。コンパクト。

入口から覗く展示ケースの「裏」にあたる部分に、まだ名前の確定していないキノコたち。
名前解決は、ものごとを整理・分類するための第一歩。
「俺の名を言ってみろ」
神話・伝説の怪物の謎かけのように。核戦争後の地球に生きる仮面の男の叫びのように。彼らにどう対峙すべきか、我らは問われている。

神奈川県鎌倉市の「鎌倉彫」。風合いを与えるマコモ墨は、黒穂病菌の胞子。

展示室の一角では、キノコのいる環境を再現。ボランティアグループの作。よくある似た展示物は大抵ガラスで隔たれているが、こちらは展示期間終われば撤去という割り切りがあるのか、上から覗き込んだり、しゃがんで寄ってみたりと自由に、能動的に「見る」ことができる。この辺はむしろ植物園の展示を見る感覚に近い。

実物の標本から拡大模型、そして顕微鏡写真へと、スケールを上下軸にとった展示。ちょっとカッコイイと思ってしまった。

植物病原菌のコーナー。最近、市民による自然観察の対象として急浮上。農家にとっては邪魔者でしかないし、既存の研究もそちら対策に寄り添うものだったろう。経済上の当事者でないからこその視点だ。

「ヌメリハツ」のキャラクターと写真、実物の凍結乾燥標本。
乾燥標本なので、肝心のぬめりが保存されていないのは残念。模型が欲しかったところか。

この「ヌメリハツ」を新種登録した時の標本は、神奈川県大和市のもので、その後も神奈川県周辺以外ではあまり採取されていないらしい。

ガラスケースの中に、さらにアクリルのケース入りで展示しているのは紫外線対策で、これが行われているのは学術的に貴重なもの。中には種の基準とされる「タイプ標本」まである。「地球の宝」を抱えているのは国立科学博物館だけではない。…ではないが、この特別展にもその国立科学博物館から借りている標本が展示されている。
「探せ!地球の宝をそこに置いてきた」


オダワラノボリリュウ(仮称)。仮称。まだ正式な名前がついていない。もっぱら小田原の、 “この博物館” の周辺で発生し、他には国内で数地点でしか発生報告のない、「ご当地」という表現では足りないくらいの超ローカルなキノコである。
キャラクターの衣装に描かれた梅は、小田原市の花。今私が住んでる大田区の花でもあるけれど。

幻の「ミツエタケ」。(NHK『らんまん』のスエコザサのように)奥様の名前を新種につけたものの、後に既知の別の種と同じであると判定されてしまったもの。今、未同定であるとして展示されていた先の標本の中にも同じようなドラマチックな人生を辿るものが出てくるかもしれない。

「そもそも菌類って?」という問いから始まり、神奈川の人々の生活と菌類の関わりや、神奈川県でよく見られる、あるいは神奈川ならではの、神奈川でしか見られていない菌類を標本と写真、イラストを使って紹介している特別展だが、神奈川で菌類を調べている人々、あるいはボランティア調査活動の紹介もあった。

ボランティアメンバーの方の作になる、きのこハーバリウム。この発想はあってしかるべきだった。店頭に並んでいたら手に取っていただろうし、他のハーバリウムと同じ価格帯なら買っただろうと思うので、たぶん初めて見た。

こちらも同じくボランティアメンバーの方の作品だが、もっとゴリゴリに美術って感じのガラス工芸品。掃除の行き届いたお宅でないと置いておけないタイプの。
ルーペ、顕微鏡クラスの微細構造をガラスや金属で表現している。生きものならではの規則性とゆらぎが美しい。

「超普通種展」の時にはなかった、キャラクター展開。9種の菌類のデザインがあしらわれている。

ミュージアムショップには、キーホルダー(¥470)、クリアファイル(¥250)、ガイドブック(¥1,000)が売られている。(あるいは、売られていた)
キーホルダーは需要が供給を上回り、5種用意されたうちの4種が売り切れ、残り1種ももう売り切れているのではないかと予想される。(展示終了まで、あと1ヶ月あるのに…)
クリアファイルは9種すべてが描かれたもので、こちらはもう少し余裕あり。
ガイドブックは、「そもそも菌類って?」あたりから「神奈川県在住の菌類図鑑」、「次に読みたい本」までサポートする本格的な内容。図版や写真をフルカラーで掲載した、たいへんに力の入ったもの。キャラクターは表紙に描かれているほか、本文中にも、ちょっとだけ登場。

写真はイオウゴケのキーホルダーと標本(小さい!)。ベルトで拘束されているという博物館発にしては冒険的なデザインだ。特徴的な赤色の子器だけでなく、細くて屈曲した子柄の特徴をも再現しようとしたのだろうか。


あちこちの博物館のミュージアムショップの商品、アクリルのキーホルダーや缶バッジなど種類が多くなり、特別展向けなど一時売りのものも出てきた。
財布を破いてしまわない程度には売上に貢献したい。そういう気持ちに対する選択肢が増えてきた。もしかしたら、同人向けに小口のアイテム製造を引き受ける業者がこちらにも出てきているのかも。

キャラクターデザインはoso氏。
博物館から、こういうイラストレーターを探したり、アクセスするのは難しかろうと思っていたのだが、『キノコ擬人化図鑑』などの出版物もあったので、キノコ好きの人たちには以前から知られていた方なのか。



この地球博物館行くと、とにかく歩く。気がつくと2周半くらい歩き廻る。階段の上り下りも多い。家に帰った後はこんな感じになっている。