2017年4月23日日曜日

合い言葉はPlus Ultra

『僕のヒーローアカデミア』の話もおいおい書いていきたい。
だが、その前に『幼女戦記』について、書き切っておかねばならぬ。

衝撃というよりは、見返す度読み返す度にじわじわ来る、そういうハマリ方をした。
テレビから入って、コミックと原作小説を読み、Blu-ray予約に至る。
映像メディアをわざわざ予約して買うのは、『はれときどきぶた』のLD以来。LDがレーザーディスクの略ということは説明しなくてもいいよね?っていう確認が必要なくらいの昔々だ。

あらすじ


悠木碧は日本の小学生。

そして、この『幼女戦記』の主人公は現代日本のエリートサラリーマン。
神の怒りにふれて、異世界に転生させられる。
転生させられた先は、戦争の足音近づくキナ臭い世界。その世界での彼の第二の人生は、魔法使いの少女、ターニャ・デグレチャフ。
彼女(彼)には、その異世界が第一次世界大戦直前のヨーロッパに酷似して見えた。
「いずれ徴兵されるくらいなら、いっそ自ら軍に志願して出世と安寧を勝ち取ろう」
初の世界大戦に驚愕することになるであろうその世界で、一人幸せで平穏な日々を送ること。それが、彼をこの理不尽な世界に追いやった神、いや神を僭称する「存在X」への復讐となる。奴に、社会人の心得というものを教えてやるのだ。

合い言葉はPlus Ultra。さぁ、前進しよう。安全な後方勤務へ。


各メディアについて


アニメ

仮想戦記モノとして、他のメディアよりシリアスめに描かれている。
堅めの絵柄に、安定のキャスト陣。初見の人を塹壕に叩き落とすための導入としては秀逸。
かつ、アニメ独自の演出もあって、他のメディアを楽しんだ後、もう一度戻ってきたい場所。

コミック

現代の感覚を持ち込む主人公と、中世騎士物語の感覚が未だ抜けきらない人々のギャップを一番丁寧に、かつ面白く表現していると思う。
『幼女戦記』という作品の持つ旨味をギュッっと凝縮した、「きれいな『幼女戦記』」。

原作小説

ライトノベルである。原作者はそう言っている。
Amazonのレビューを読むと、酷く読みづらいという評が多い。
4巻までを読んだ限り、確かに悪文ではある。が、酷いのは地の文というより、主人公の独白にあたる部分であり、つまりは主人公のクソさ加減の表現であるのが驚きだ。
アニメやコミックではうまく省略されている、主人公の思考の脱線や循環がこちらでは懇切丁寧に書かれている。


魅力


異世界モノらしく、主人公と世界とのギャップを描かれているのだが、その内容が割とえげつない。
主人公は平和な現代日本で生まれ育ち、戦争を書物や映像でしか知らない。その一方で、過去の歴史としての東京大空襲や原爆、現代のニュースとしてのテロリズムなどの知識はあって、戦争で大量に人が死に、その中に民間人が含まれるということを常識としている。
他方、その彼が投げ込まれた世界は、鉄道網の発達による大量動員と、機関銃や爆薬などの新兵器の登場で、戦争の死傷者の桁が跳ね上がったことに、自ら戸惑っている状況。“戦争とは兵士が前線で戦うもの”という古い常識と、1日あたり数千人という画期的な生産性向上(戦死者の)がもたらす、世界の根本的な変化へのギャップを埋め切れずに苦しんでいる。
作中ではこのギャップが、幼女が何の気なしに放った(当たり前の)一言が、周りのいい年したオッサン……強面の軍人達をドン引きさせるという形であらわれる。
原作小説は4巻まで読んだ。周囲を敵国に囲まれて四面楚歌の帝国(ドイツに相当)を、神の呪いを受けた主人公が自身と次第に同一視し感情移入していく過程。およびその幼女の不吉な予言……いずれ帝国は世界全てと戦うことになる。戦っても得られるものはなく、勝者の唯一の権利は死なずにいられることだ……を苦々しくも、大人たちが受け入れざるをえないと認めていく過程。今のところ、そんなところにドラマっぽさを感じている。

人事課長二人

主人公のサラリーマン時代の役職は人事課長。会社の命じるままに、リストラを粛々と進めていく。人間を資源(人的資源)とみなす考え方を自然に受け入れていて、彼自身もその中に含まれる。その資源を有効に利用することには使命感すら感じている。
作中で、彼女(彼)を「怪物」と呼び、その出世を阻もうとし、その活躍に頼りつつも苦々しさを感じている人々の代表格はレルゲン中佐。奇しくも軍の元人事課長である。人間を資源と呼ぶ主人公には、素朴な倫理観から反発を覚え、その行動に恐怖を抱いていく。
レルゲン中佐と主人公の間に和解はあり得るのか、それまで中佐の胃袋が耐えられるのかも秘かな見所である。

それとこの人

アニメ版でとにかく異彩を放つ、この女性。良いことがあれば神様に感謝し、悪いことが起きれば神様に恨み言をいう素朴さを持つ。その一方で、主人公の行動の合理性もある程度解し、副官として有能に立ち回りもする。
しかし、アニメ版でのビジュアルが……。
世の中の大きな変化にも、予測しがたい上司の行動にも、なんだかんだ言って順応していく彼女。ある意味、主人公以上の怪物である。

その女、ヴィーシャ中尉。


一般的な女性将校(名前ありゲストキャラ)はこんな感じ。どうしてこうなった。


まとめ

悠木碧はオッサンである。
早見沙織はオッサンでない。