日本のSF作家による、書き下ろしアンソロジー。
『BEATLESS』『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』の長谷敏司のAIネタが書き下ろしで読める、というのがフックになった。
ChatGPTとか、生成AIとか、最新の知見を取り込んだ近未来を舞台とするような作品が多いだろうと想像していた。しかし、そこはSF作家。最近のAI事情を踏まえつつも、「スゴい未来」から「時は平安末期」みたいなものまであり、よりどりみどりだった。
むしろ、冒頭に挙げた長谷先生の「準備がいつまで経っても終わらない件」がほぼ現在進行形の時代設定で、むしろそれが異色と言ってもいいくらいだった。
以下、個人的なトピック。
準備がいつまで経っても終わらない件(長谷敏司):
大阪万博の開催をかけて行われる相撲対決。そして、いのちの輝き。形態学としての病理診断の終わり(揚羽はな):
AIに仕事を奪われるテーマとして、割とシビアな話。そして残るもの。智慧練糸(野崎まど):
平安末期。千体の仏像制作を依頼された仏師が、納期厳守のために採った方法は。月下組討仏師(竹田人造):
月が消えるという未曾有の異変のさなか。江戸城で繰り広げられる仏像バトル。チェインギャング(十三不塔):
(自分的には定番となりつつある)大塚芳忠さん&悠木碧さんの二人芝居で聞きたい話。
知能を持つ刃物に人類が操られる世界。鎖鎌と少女が禁足地を目指す。セルたんクライシス(野尻抱介):
人々をケアするパブリックAI「梁井セルたん」が神様を自称し、「セルたんクライシス」について語り出す。アシモフ話。
そう言えば、AppleTVで『ファウンデーション』のシーズン2が始まる。作麼生の鑿(飛浩隆):
「事前の観測・計算を行わずに、木材から仏像を彫り出せ」という難題を与えられたAIが悩み続ける。
仏教が絡むネタを扱った作品が自分の琴線にふれることが多かった。哲学的な問いかけを多く含み、ガジェットが豊富なのが魅力か。
巻末には鳥海不二夫氏の、現実のAIについての解説。解説文中でも紹介されている『強いAI・弱いAI』は読んで楽しい対談集。当ブログでも過去に取り上げている。
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