前から怪しいと思っていた、この界隈。
国立科学博物館の特別展『昆虫MANIAC』だ。
ポスターや他の宣材で強調されるのは、虫より研究者だ。純粋に昆虫展を期待した人はこの先何度も驚かされることになると思われる。
『昆虫MANIAC』と言いつつ、本展ではクモなど昆虫以外の生き物も「ムシ」として扱う。オレオレ定義という奴だ。苦手な人は「話が違う」とUターンしそうなものだが、そんな人はいなかった。
「見る」以外の展示、今回も行われていた。写真は「聞く」展示。セミの鳴き声、しかも13年、17年という長い周期で、サイクルの長さをキャッチアップすべく、大規模に繁殖する「素数ゼミ」の大合唱を穴に頭を突っ込んで聞く。
2024年は、この13,17という素数の最小公倍数、221年ぶりの当たり年。(素数なんで最小公倍数も13×17)
本物は屋外でもパチンコ店の店内くらいの音量になるらしい。
コーナーそれぞれには、各コーナーを代表する「ムシ」の巨大な拡大模型が。写真を撮って拡散しろ、という暗黙のメッセージを感じて、皆写真を撮っていた。
現在、発見されている中で最小の昆虫(エクメプテリギスホソハネコバチ,
0.139mm)。見るのに顕微鏡がいる小ささ。「現在、発見されている中で」というのは、種の数全体(推定500万)における発見済の種(推定100万)の割合が少な過ぎて、大きい方はともかく小さいほうは言い切りが難しいからだ。
「ムシ」の世界においては新種の発見は研究者の日常とまで言い切られていた。ブルーオーシャンだ。
「土瓶割り」と、豪快なあだ名を付けられた蛾、クワエダシャク。もっとも、土瓶を割るのは、枝に土瓶を引っかけようとして、間違って枝に擬態した蛾の幼虫に土瓶を掛けようとした人間である。蛾のせいにするのはよくない。
体の半分がオス半分がメス、昆虫界のあしゅら男爵。「たくさん捕まえると、その中に…」と書かれていたが、昆虫研究者の「たくさん」がわからない。
この「おわり」は、新たなクラウドファンディングの始まりを予感させる。
家に帰って確認したら、ウチのタンスも終わってた。
科博では珍しい生体展示。残念ながら、壁面にへばりついている個体はいなかった。
(特定の行動の展示は、本職の動物園でも苦労するところ)
生体展示、もう一つは動物の糞を食べる糞虫。お隣の上野動物園からエサが提供されていた。この特別展がこの後、全国巡回するとしたら、それぞれご当地の動物園から分けていただくことになるのであろうか。
チョウシハマベダニ(
Ameronothrus twitter)、イワドハマベダニ(
Ameronothrus retweet)、ともにSNSでの写真投稿がきっかけで「発見」された新種。シチズン・サイエンスすなぁ。
階段降りて、長い廊下。その廊下と同じくらいの長い捕虫網。プロの昆虫採集道具だ。
ただの黄色い皿(色が重要とのこと)と、半分に切られたマヨネーズ容器。こちらもプロの道具だ。実際の使い方、そして研究者が各々の専門とするムシをどのように採取しているかの解説動画があった。小学生の夏休み前にやってくれよ。
「地球の宝を守れ」とスローガンをかかげ、つくばにドデカい収蔵庫を建てる、その中から「世界唯一の貴重な資料」を取り出す一方で、テーマに則してこういう展示物を差し込んでくる。これも「科博の特別展」の面白いところ。
昆虫みたいな、多様すぎる生物種の展示って、間口を広く取ろうとすればボンヤリと珍しいものを並べて終わりそうだし、深さを追求すると大半の人がスルーせざるを得ない狭いものになりそうな気がしていた。この特別展は、普通に展示したら前者になりそうなものを、暗黙にあった「研究者の視点」を前面に押し出して再編集することで、見る側の視界をクリアにすることに成功していたと思う。
オマケ: もう手放しちゃったよ、重要科学技術史資料……。