2020年12月6日日曜日

世界が終わるまでは

ついにセルダンは計算をやめて、いった。「これは五世紀後のトランターだ。これをどう解釈するかね?どうだ?」かれは小首を傾げて、待った。

ガールは信じられないようにいった。「完全な滅亡です! しかし──しかし、そんなことはありえません。トランターはいまだかつて決して──」

アイザック アシモフ『ファウンデーション』

コロナによる人類滅亡の可能性が視野に入ってきてから、既に半年が過ぎた。その中で、日本は「不要不急の外出を控えながら経済を回すために旅行を推奨する」作戦を展開中である。

実際のところ「外出を控える必要が無くなったときには行きたい場所が消失していた」という悲劇は日本各所で既に発生している。自然、無くなって困るところには今だからこそ行っておかねば、という気持ちも起こってくる。

無くなって困るところ、東京。無くなったら命に関わるもの、水道。

そうだ、「東京都水道局」の施設に行くのだ。

とは言え、ここに来て急に「行きたい場所のリスト」に挙がったというわけではなく。外出先を近場に絞りたい昨今の情勢。ついで、最近歩いてきた東京の水回りについて博物館的なところでおさらいしておきたい、そんな希望を背景に。優先順位の最上位に浮上したのが、今回の行き先だ。


鶴見川水系のシンボルであるバク。ただし、ここは東京都江東区である。

東京都水道局の「水の科学館」だ。


外壁に設けられた、ドバドバと、ただ水を垂れ流し続けるだけの「噴水」。農業用水を巡って命がけで争ってきた川崎地域の人々が憤死しそうな所業だ。Fury Road。
視点を変えれば、江戸時代から近代そして今に至るまでに、それだけの努力と進歩を積み重ねてきたということでもある。


最上階の3階は、水源である多摩川の源流とそれを取り巻く自然を取り上げている。(『鬼滅の刃』で、急に注目度が上がった)雲取山あたりを北端に、水源林一帯の地形図が床に並べられている。

「旅行」になりそうなので、自粛している奥多摩は小河内ダム。
そして、死ぬまでに一度は見てみたいとは思いつつ、登山とか坂道とかが嫌なので「保留期間:一生」にしている「小さな分水嶺」「水干」。
そんな場所を映像でチラ見させてくれる。

のび太「坂道に弱くてねえ。平らな山ならいいんだけど……。」

動植物の標本展示も、行って目にしたとしても絶対に気付かないような「土地のもの」をピックアップしている。

目玉は「水のたびシアター」。雨粒がダムから放水されて、取水口から浄水場……蛇口から出るまでを、少々無駄に迫力ある映像で見せてくれる(映像酔い注意)。
一番ウケたのは「クマがミツバチの巣からハチミツを取る場面を木の幹の中からの視点で」という面白映像。
しかし、一番驚いたのは水源の林を水道局(つまり都の予算で?)が自ら維持管理していたこと。勝手に林野庁とか環境省(国立公園)とかだと思い込んでいた。


チェーンソーアートの水滴くんは、もともと奥多摩の「水と緑のふれあい館」で展示されていたもの。


土壌の標本。カットモデルは男の子の夢。


吹き抜けから「わくわくマウンテン」を撮影。でも3階からの見下ろし視点ではなく、2階がベストポジションだったらしい。(撮影ポイントがある)


その2階は、水そのものの物性をフィーチャーした実験室、浄水の工程の説明、さらにその後蛇口から出てくるまで……。こっちは割と人間の世界。

自宅に届く水道水が、どこの浄水場のものか教えてくれる展示とかが楽しい。しかも、自転車を漕いで道行く設定で、漕ぐのをサボると映像の再生が遅く……という芸の細かさ(ありがた迷惑!)。


写真に他の客が映らないようにするのがとても容易だった。実際には客はいるのだが、館のキャパに対しては相当な「疎」だった。触って遊ぶ展示が多いので、夏頃までは相当の困難があったと思う。昨今は「物への接触よりも、人間の呼吸」に対策の焦点が移りつつあるからか、互いの距離を取ることと、長時間一カ所に留まらないことに注力されている。

お金のかかるコンテンツは「東京の水道水で飲料を作る自販機」のみ……屋内であれば、あちこちに存在するもの……くらいだ。
特にメインの「ミネラルウォーターと互角に戦える『東京の水道水』」がタダでいくらでも飲める。マイボトル持参も可という太っ腹ぶりだ。
そこを「物販ないのが惜しい」と思うか否か、微妙なところ。



さて、上水道の次は下水道。


東京都『虹の下水道館』。有明水再生センターの5階にある。左は有明清掃工場、右はスポーツセンター。(施設として一体のものなので、実際にはもう少し複雑)


水の科学館より、館自体はワンフロアで小規模なもの。ただ、下水道管を模した配管が床下に透けて見えたり、その管自体も水の流れるところを見せるために一部透明だったりで、1テナントとして出来る範囲での工夫がある。

「水の科学館」は面白いところだったが、「虹の下水道館」はテンションが上がる感じがある。国立科学博物館の地球館と日本館のようなカラーの違いがある。そう、身近にある、日常的な風景の裏側に入り込む感じだ。


レインボーシネマで上映されているショートフィルムには主演らしき温水洋一氏の姿が。アニメ作品など含め、1本10分~20分くらいのものが複数上映されていた。 失敗した。これ、絶対に面白い奴じゃん。
「水の科学館」が楽しすぎて、入館したときには、最後の作品の上映中だったのだ。


いつか必ずお世話になるであろう、仮設トイレ。近代化改修済のマンホールの上にかぶせて使う。見分け方を知ってしまうと、そのようなマンホールを事前に探しておこうという気にもなる。


お仕事体験、水再生センター見学ともども、1日辺りの実施回数が少ないので、下調べが必須ではないかと思われる。もっと時間を取れる日に再挑戦したい。

好みが分かれるというか、相当に人を選ぶと思うけど、合う人は常設展示眺めるだけでも相当楽しめると思う。


同館1階の駐車場の傍らでは、センターで再生された水でコイが飼われている。
きれいさのアピール」であることを理解しつつも、「白河の清きに魚も……」の句が連想されてしまった。申し訳ない。

2 件のコメント:

  1. 鯉はかなり水質悪化に強いですよ~

    返信削除
  2. 再生水云々以前に、露天でってトコで他の魚では難しそうですね

    返信削除