2020年1月4日土曜日

Dr.STONE

「僕らは一体、いつからここへの道を歩きだしたんだろうな」
「道具を財産として、親から子へ相続するようになったころが起点でしょう。サルは道具を相続しませんから」

長谷 敏司. BEATLESS 下 (角川文庫) (Kindle の位置No.5309). KADOKAWA / 角川書店. Kindle 版.

このブログでもエントリを挙げた『BEATLESS』は、相続や既得権益が、格差や社会的な緊張関係を生み出し、人々を苦しめていく側面を強調する話であった。
この『Dr.STONE』は、全人類が既にして既得権益者であり、過去の人々の遺産を(おそらくは負債をも)相続しているのだ、とする話である。
アニメの第二期が決まったこの機会に、思ったことをポツポツと。

いろいろな要素を省いたあらすじ

謎の現象によって、ほぼすべての人類が石化してしまって数千年。
たまたま息を吹き返した、主人公の少年、石神千空。彼は、ある理由によって、石化から逃れえた人類の子孫たちから成る「石神村」の村民たちとともに、失われた科学文明を取り戻すための巨大な「ロードマップ」に挑む。

わかりやすい目標設定

ストーリーの節目節目で登場する(というか、千空が掲げる)、目標の多くはケータイとか、自動車とか、現代を生きる読者にも馴染みの深いものだ。
ケータイと言いつつ、実態は片手で持つこともできぬ大きさで、中にコンピューターもなければ、野外には基地局もなく、電話局や交換機さえないので、電話システムというよりは、台車に乗せたら運べるくらいの巨大なトランシーバーだったりする。
なんかショボそう、優良誤認であるという印象を持たれかねない、この言い換え。これは読者に身近なもので分かりやすくという効果を狙ったものであろうけど、その一方で、現代の我々の生活を支える道具の数々が、確かに劇中で再現されるガジェットの延長上にあるのだということを暗に伝えてくれてもいる。

豊かになっていく石神村

千空には、大きな目標も、敵対する勢力もあり、ある程度期限を意識した行動を求められている。
しかし、その一方で、村の生活を豊かにし、あるいは楽しむための工夫もきっちり進めていくのがいい。
千空が村民に提示する目標とその過程を示すロードマップは、村人にとっては往々にして不可解で、それ自体には全く価値の見いだせないものだ。
その村人たちの目先に並べられるのは、金ピカの武具や、今まで存在しなかった美味。
ロードマップの道筋の半ば、その場その場で可能になった技術は村人に還元されていく。まるで、ごみ処理施設の近辺に温浴施設が設けられるように。
千空は村長として居ながらも、彼の命令だから唯々諾々と従う村民はおらず。貸し借りもなく、むしろ物々交換に近い形で、千空は目標を達成し、村人は豊かになっていく。

この石神村の人口は40人。これがまんま、(石化からの復活者を除く)既知の人類の総人口。絶滅危惧種である。なかなかのピンチだ。
にもかかわらず、この村には、探検と素材集めといった、生活の役に立つとも思われない活動に精を出す少年クロムがいる。視覚障害を抱えながらも、他の人の手助けをしようとする少女スイカもいる。
根源に近いところで、余裕があるというか。見れば、我々人類の古くからの友人であり、文明の礎とも言うべき犬もいる。

ロードマップの実現にあたり、しばしば訪れるピンチ。ピンチを打開するのは、都合良く見つかるレア素材である。都合こそ良いが、それらが手に入る幸運は天から降ってくるものではなく、むしろクロムやスイカの行ってきた貯金が取り崩された結果だ。その貯金を可能にしたのは「石神村」という環境が持っていた豊かさだ。ゆえに「石神村」は「科学みやげ」たるのである。

大いなる相続の物語

実におありがてえ。科学王国は来る者拒まず、猫の手も借りてえんだ。
同作「Z=21 鉄の夜明け」より

『Dr.STONE』でも、主人公の千空は、養父の百夜から「石神村」という「科学みやげ」を相続した。
百夜と千空の間に直接の血のつながりはない、とされていることは示唆的だ。
『Dr.STONE』の中で語られる「科学」は、血縁もなければ、思想信条も異なる、同じ時代を生きてすらいない、多数の人々による暗黙の協業の手段であり、成果である。
ここでは、現代を生きる私たち全員が既得権益者なのだ。私たちは直接の血のつながりを持たない多くの人々から、すでにその遺産を相続しており、同じように自分のあずかり知らぬ相手に財産を分与していくのだ。

このアニメでの私のお気に入りは、スイカが眼鏡を手に入れるシーンだ。
視覚障害をもたらすボヤボヤ病という不治の病が文明の力で克服される瞬間である。そして、いわば数千年の時を経て、再び眼鏡っ娘が誕生するシーンでもある。
ありがとう、科学文明。私たちに眼鏡っ娘を与えてくれて。

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