名人椿正明が教える帳票分析50のケーススタディ (DB Magazine SELECTION)
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業務分析の場にお呼びがかかるようなキャリアの持ち主じゃないけど「帳票」の2文字に惹かれて手に取った。この単語をタイトルに含んでいる本ってなかなか見かけないのだ。自分は大好きなんだけど。帳票。
データモデルを構築するときに行う、帳票分析の事例を集めた本。名刺やスーパーのレシート、診察券みたいなものから時刻表、勤務表、etc.・・・
比較的簡単な事例10から、より複雑な事例へ…という展開だが、1つ1つの事例の説明に省略が多すぎてついていけなかった。
特に、導入的に紹介されている最初の10件はもう少し丁寧に説明して欲しかった。基本的な事例だから…とワークシートの掲載さえ省略されている。結論として示されたモデルが直感的に良さそうか否かじゃなくて、提示されている情報から理詰めで結論に到達できることが示されないと、手法が手法として成り立っているのかどうか、その手法でどこまで実現できているのか分らないではないか。
ここが気になった
- ボトムアップ手法と言いつつ、そうなっていない。
- データ項目の要否を勝手に判断している。
- レシートの預り金額、お釣りがデータ項目に取り込まれなかった。特売情報に至っては候補にすら挙がっていない。
- データ項目の区分を勝手に整理している。
- 診察券の"国保・社保・自費"を"保険診療か自費か"、"国保か社保か"の2つに分割。
筆者の出した結論はきっと正しいのだろう。しかし、その判断の根拠が空中から掴み取られている。帳票に表現されていない背景を勝手に想像している。これが推理小説だったら読者が怒るかもしれない。筆者自身の常識と勘と経験と度胸が暗黙的な入力になっているのだろうけど、手法から自動的に導き出される情報と、そうでない情報があまり区別されていないところにもやもやとしたものを感じる。
疑問に思ったのは、ボトムアップと言いつつ、実際には「あるべきデータモデル」が予め想定されていて、それに当てはめてみせているのではないか?というところ。
そのやり方が良い悪いと主張するわけではない。しかし、説明しようとしている手法と実際の分析でとられている手法が食い違っているのであれば手法の解説本、事例集として読むことはできない。本来必要な分析の一部だけを切り取って見せているために分析過程が飛んでいるかのように見えるのではないだろうか。
- データ項目の要否を勝手に判断している。
- アレ?と思えるデータモデルがある。
- ATMの取引明細に、銀行口座の情報と取引に使われたATMの情報がある…けど支店の店番の項目が一つしか無い。この銀行って、もしかして口座のある店のATMしか使えないの?
帳票という限られた情報源からモデルを構築するわけだから当然漏れや誤りがあって当然。なんだけど…。作ったデータモデルが妥当かレビューする観点、手段の提示もあればなぁと思った。
別の事例として挙げられている、経理伝票から導き出されたデータモデルに承認者関係の情報が無かったのも疑問だ。純粋に経理事務だけを扱うシステムであれば決算書の入力として使われない情報は入力する必要も無いから、結論としていらないという判断なんだろう。けど、「この経費通したの誰よ」って追跡が期待されていないとも限らない。1と絡むが、分析対象の業務をどこまでシステム化することが求められているかによって、モデル化が必要な範囲も変わるはずだ。
- 伝票を帳票として扱って良いか。
システムへのINPUTである伝票と、システムからのOUTPUTである帳票を同じ観点で扱っている。データ項目の切り出しという点ではどちらも重要だろうけど。この点は疑問に思いはしたものの、どうあるべきかという見解は自分も持ち合わせていない。粒度の大きいデータ(帳票向け)を崩して、粒度の小さいデータ(ほぼ伝票)を生成しようとしてコケてるところを横目で見た事があるから、これってアリ?と思っただけ。
もっと事例の数を絞って、1つ1つのシステムの分析をていねいに追った本が読みたかったかな。
少なくとも自分の能力では、筆者の手法で1本の帳票からデータモデルを構築するのはかなり難しく感じられた。明細になってる部分とそれ以外の部分が区別できるかってくらい?
やはり複数の帳票を突き合わせて情報の関連を見るなり、入力も含めて流れを追うなりしないと、与えられたその帳票の読み方すら分らない。
おまけ) 私が帳票大好きな理由:
- ユーザーの希望や設計者の好みに引っ張られがちな入力系よりも、業務要件の本筋に正直。
- システムの挙動がおかしいとき、まず「帳票に変な数字が出た」と言われがち。トラブル対応窓口直結。
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